武内絵美インタビュー
6月9日
■ なんかロマンチストだね
- W杯出場決定、おめでとうございます。
- ありがとうございます。
- 6日のウズベキスタン戦では、退席処分になりましたが、初めてですか?
- 僕は選手時代にも1回も退場になったことがない。だから選手、指導者を含めて初めて。ちょっと許せない気がするんですけど。まあ、なっちゃったものはしょうがない。
- 監督になって初めてピッチを外から見た感想は。
- 通路のところで見てたんですが、1人少なくても大丈夫だなっていう確信があった。早く終われ、とだけ思って、そんなにヒヤヒヤした感じはなかった。
- テレビを見ている方はヒヤヒヤしていましたが。
- 選手たちがすごく落ち着いてて、崩される雰囲気がなかった。僕は落ち着いて見ていましたね。
- 笛がなった瞬間は。
- やっぱりうれしかったし、ほっとしました。同時に、ようやくこれで新しいチャレンジができるんだ。やんなきゃいけねえ、という充実感がありました。
- 一番最初に勝利を分かち合ったのは誰ですか。
- 近くに川島とか松井とか、ベンチ入りしてない選手がいて、彼らと握手しましたね。
- 本田選手の頭をたたいていたのが映りました。
- あいつねえ、交代で出てバテバテで走れなくなってたんですよ。交代の選手としては、っていう話をしてたんですが、テレビに映ってましたか。
- フランスW杯では決勝トーナメント進出が目標で、今回はベスト4。12年前より手応えを感じているからこそ、目標を高くしているんでしょうか。
- もちろん。日本のサッカーは確実に進歩している。12年前もそれほど低くなかったかもしれない。ただ、全体の経験値が少なすぎて、やる前から自分で差をつけていた部分があった。今はいろんな大会を経験したり、選手が海外に出たりして、経験値が上がっている。ベスト4は非常に厳しい目標だが、不可能じゃない。なぜベスト4に行けるのか、ということまで選手に話しているし、僕は行けると信じている。
- 選手に最初に「ベスト4」と伝えたのは。
- 一昨年の12月に集まったときに、「出るだけじゃなく世界を驚かせてみないか。韓国だってベスト4に入っているじゃないか」と。ベスト4と言ったつもりはなかったけど、それが「ベスト4」と外に伝わって。まあ、それでもいいや、と。
- 選手のコメントなどを聞くと、監督の言葉が浸透しているようですが。
- 僕にできることは選手に「本気でベスト4を目指してみないか」と問いかけることだけ。本気で目指すことは生半可なことじゃない。夜、酒をかっくらってて、適当な練習で、そこそこの試合内容でベスト4に行けるかい、と。そういう問いかけをするだけで、選手は何をしなきゃいけないかを知っている。問いかけ続けて、本気になったら選手が変わる。プレーを見てれば分かりますが、本気だったのは最初は1人か2人。だんだん増えて、今は7、8人になっている。これが、登録全員の23人が本気になったら、本当に強くなると思う。本気で取り組んでるのは、俊輔(中村)や遠藤、中沢たちチームの中心。彼らは最後のW杯であり、06年に悔しい思いをした、というのがあるからかもしれないけど、本気でやってくれている。
- 中村選手には最初に招集したときに話をしたそうですね。
- 中心になる選手には僕の考え方や、本気でやってみないか、という話をしている。彼は本気でチャレンジしましょう、と言ってくれた。彼が目指してくれることが、チーム全体を引っ張ってくれている。
- 監督自身は12年前とどう変わりました?
- だいぶ髪の毛も少なくなったしなあ。まあ、監督は今、やれることをやるしかない。映画じゃないけど、昨日? そんな昔のことは忘れた。明日? そんな先のことは分からない、と。その時点、その時点で、あのときは良かったな、と思うようにしている。でも、12年前とは全く違う。あのときは視野が今の3分の1ぐらいで、サッカー以外のものは何も見えずに必死だった。今も必死だけど、必死の質が違う。6日の試合前の午前中に時間があったんで、トルコ対スペインのビデオを見た。12年前だったら、そんな余裕はなかった。自分か相手のビデオを何回も見ていた。そういう、ゆとりが出てきた。
- 24時間、サッカーのことばかり考えている。
- この仕事をやったら、世界中の誰よりも、このチームのことを考えている。どうしたら勝てるのか考え、そのためにできることをやるのが当然。長い人生の中で、そんなに長くやるわけじゃないし、当たり前のことだと思います。
- 監督をやっていて、一番うれしかったこと、つらかったことは何ですか。
- うれしかったのは、勝ったり優勝したりしたことかな。何で、こんなにストレスのたまる仕事をしているのかな、と思ったとき、自分を信じてついてきてくれている選手、スタッフという仲間の笑顔が見たい、ということ。その人たちや家族が喜んでいる姿を見るのは、何物にも代えられない。逆に、彼らがピッチで生き生きしていない、ネガティブな姿を見ていると心が痛む。
- 監督は会社でいうと、社長や会長。年齢や個性の違う社員をどうまとめているんですか。
- 試合には11人しか使えない。人間、誰でもいい人と言われ好かれたい。僕もそう。でも、この仕事やってたら、それは自分から求めちゃいけない。選手への愛情を持ちながら、チームを勝たす役割がある。そのために切る者は切らないといけない。ジーコ(元日本代表監督)が最後に久保を落としたとき、久保の子どもが「ジーコ大嫌い」というのを聞いてたけど、そう言われる仕事。ただ、そこに自分の私情を挟まず対処した決断は、いつか本人に伝わると信じている。割に合わない仕事かもしれないけど、昔、僕が外した仲間から声をかけられると、やっぱりうれしい。
- 外した選手の奥様から、ずっとにらまれていたこともあったとか。
- そういうこともありましたねえ。まあ、色々ありますね。
- W杯まであと1年ですが、どう強化しますか。
- メンバーはまとまりが出てきているので、ベースが変わることはない。ただ、代表チームは入り口と出口を常に開けておかないと、水が濁ってくる。代表はある程度、新陳代謝をしていかなきゃいけない。その程度の入れ替え。強化日程は決まっているが、それだけでは自分の目標とするところまでいかない。これは選手個々に課題をみつけて一年間続けてもらう形になる。チームとしては少しでも強いチームと試合をやりたい。
- W杯予選の残り2試合の位置づけは。
- 出来る限り強化を考えたいが、選手にけがをさせても元も子もない。正直言うと、今、頭の中でメンバーは白紙。Bチームでいくとか、消化試合にするつもりはない。チーム全体の力を上げる試合にしていきたい。
- 読書が好きだと聞いてますが、最近、読書の時間はありますか。
- キャンプ中は意外と読めない。5、6冊は持って行くけど、1、2冊しか読めない。でもちょっと前までは1冊も読めなかった。読んでても、ふっとサッカーのことが浮かんで、頭に入らなかった。最近は読めるようになった。
- 心境の変化があったんですか。
- チームの安定感が出てきたんでね。選手もこれくらいはできる、というのができてきた。それを僕が感じるから、ゆとりが出てきたのかな。
- 最近読んだ本は。
- メンタル面などで色々、教えていただいている福島大学の白石豊先生の「本番に強くなる」ですね。まだ発売前のゲラの段階で送っていただいたのを読んだんですが。
- エコの活動も。
- 大学時代から30年近くやってますんで、淡々とやってます。環境問題の中には、地球の人口が10分の1になれば多くが解決する。そういう根本的な矛盾があるから、自分への言い訳のような感じでやっている。
- ところで、眼鏡は何本くらい持ってるんですか。
- 20本くらいは持っている。眼鏡会社と契約していて、新しいタイプを送ってくださるんで。普段かけているのは遠近両用。サッカーのときは近視用がいい。今使っている形が好きで、ずっと使ってますね。サッカーのときはジャパンブルーので、だいたいその二つしか使わないですね。
- 最近、涙を流したのはいつですか。
- 涙、涙ねえ。題名は思い出せないけど、ドキュメンタリーの本を読んで泣いたなあ。ちょっとホロッときたね。
- 本を読んで涙を。
- なんかロマンチストだね。
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